じゅういち

 その夜。当然の結果ではあるが、ミナトとの物理的な距離が縮まった。
「狭い」「自分で置いたんだろ……」やっぱりマットレスを買っておくべきだったか。それを見透かしているようにミナトは言う。「床で寝たら怒りますので」「なんでさ」と返すとミナトは寝返りを打ちながら続ける。「一回寝たことがあるから」
「……何したら床で寝るのさ」答えは帰ってこない。でも、寝た様子もない。まぁ良いか、と寝ようとした時にミナトは喋りだす。
「大学入ってから、一回ちょっと病んだ時があって。気が付いたら床で寝てた」
「……そっか」あれだけ明るくて、自由気ままなミナトが。
「心が痛い時に身体も痛いとどうしようもないくらいにズタボロになるから」
 確かにそれは嫌だな。「だから、痛くなって欲しくない」「……それならマットレス買えばよかったじゃん」はぁー、と盛大に呆れたように溜息をつくミナト。「わかってないなぁこいつは、ばかめ」と言われるので「少なくとも痛くは無いと思うんだけど」と返す。
 そうじゃないと頭突きを入れられる。「私が――」寂しいんだ、と。最後まで言わせる前に頭を撫でる。「ありがと」ミナトはまた寝返りを打つ。
「ねぇ」僕の背中に頭をくっつけながらミナトが話し出す。
「抱きついていい?」「いつもしてるでしょ」そうじゃなくて――。
 そう言うように。頑丈に僕の事を強引に抱きしめる。いつにも増してミナトの体温が伝わってくる。「寂しいのはお互い様なんだから」そう言いながら、優しく抱きしめる。
「一旦解いて」ミナトはうん、と頷きながら僕の事を手放す。僕は寝返りを打って、ミナトを正面から見る。そして、ミナトのことを優しく抱きしめる。
「ずるい」とだけ言うとミナトはそれに返すように僕の事を抱き返す。
「ずるいのはミナトの方」「存じ上げません」少し震える声でミナトが返す。片手で頭を撫でる。
「ミナトが元気で居てくれたら僕も元気になれるから」「善処してやろう」
 どこまでも生意気で、どこまでもお人好しで。だから、だからこそ。今もこうやって、ミナトに恋い焦がれてしまっている。封印したはずなのに、諦めたはずなのに。少しずつ、確実に。僕はまた、ミナトの事を好きになってしまっている。

「……本当に、ミナトはずるい」数分後、いつものように寝てしまったミナトを見ながら零す。「こんなことされたら……また、好きになるじゃないか」ん、とだけ話すミナトの寝言にびっくりしてしまう。聞かれてない、聞かれてないはずだ。
 ――聞かれてはいけないのだから。そうやって、また強引に蓋を締める。
 でも、この夏休みだけ。ミナトを独占できると言う優越感だけは捨てきれなかった。

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モラトリアムxサナトリウム

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