我が物顔でミナトが部屋に居候しだして十日くらいが経過したある日、インターホンが鳴る。「宅配です」と頼んだ記憶のない宅配が届いた。配達員から荷物を受け取り「ご苦労さまです」と返し部屋に戻る。宛名はミナト宛だった。
「ミナト宛の荷物だよ」「おー、届いたか」早速開封するミナト。入っていたのは数着の着替えや生活用品。いや、こいつ定住するつもりじゃないよな?
「そろそろ似たような服も飽きてきたでしょ?」「入ってる服も大概似たような服だけど」そう返すと即座に頭に手刀を入れられる。「私にとっては違うんだよ、確かに似てるけど」いや、似ているんだ。と思い苦笑いしながら「と言うか、定住する気でしょ」と聞く。するとミナトは笑う。「住むならもっと持ってくるよ」「……追い出すぞ」出来ないくせに、と小馬鹿にしながら荷物を取り出すミナト。「ちょっと!頼むから下着とかはせめて隠して!」「いや、もう観念しろ」勘弁して。
ミナトははぁとため息を吐くと「それとも、女の子として意識してる?」と僕に詰め寄ってきた。「そりゃまぁ……意識はするよ」と返した所ふぅん、とその意識せざるを得ない下着を持って考え込むミナト。「それなら良かった」
何事もなかったかのように整理を再開するミナト。衣類ケースを買う日も近いのかも知れないけど……買ったらもう定住されそうで困るな。
作業しながらミナトが「このダンボール、色々整理に使いたいから開けっぱでいい?」と聞くので僕は「まぁもうでかいカバンがあるんだから今更部屋が狭くなっても何も言わないよ」と笑う。元々家具なんてそんなに置いてない部屋なんだから。
「あとは……あった!」荷物の中に埋もれていた物を取り出すミナト。「ぬいぐるみ」……を、取り出す。「見ればわかるよ」小さい頃からミナトが大切にしていたぬいぐるみだ。ミナトの家に遊びに行くたびベッドに鎮座し、ミナトはそれを抱えながら僕とよく話をしていた。「と言う訳で」ミナトがぬいぐるみを取り出すのですかさず僕は「ただでさえ狭いベッドを更に狭くするおつもりで?」と尋ねるも 話すら聞かずにベッドにぬいぐるみを置くミナト。
「これでよし」いや、良くない。そこまで大きいサイズでは無いにしろただでさえ狭いシングルベッドに二人でなんとか寝てるのに。これ以上密着するハメになる。「ぬいぐるみに奪われて寂しいのかー?そうなのかー?」「違います」と返すけど。あー、いや。違わないです。
こんな事言えないけど、本音を言うと。ミナトに抱きつかれながら眠るのは慣れるとかそう言う次元ではなく。とてもリラックスできて、凄い安心できて。一人じゃないんだって。
確かに諦めきれない自分は居るし、未だに起きて情緒が乱れる時もあるけど。それ以上に、ミナトが居ると言う安心感の方が大きかった。
やれやれ、自分は何を考えているのだろうな。と思いながら「せめてこれ以上は増やすなよ」「善処します」そう言いながらミナトがダンボールから二個目のぬいぐるみを引っ張り出してきた時、僕はもう何も言えないのであった。