――ミナト。昔から世話焼きで、どうしようも無いくらいにおせっかいで。何かある度、僕の事を優しく叱りながら解決に導いてくれる存在。『まったく、私が居ないとなんにも出来ないんだから』
高校の時、失敗を繰り返して投げやりになっている時期があった。こう言う時、無性に公園のブランコが良いポジションに収まると言うか。ブランコに座り、地面を蹴りただひたすら揺れる。それだけをずっと繰り返していた。
「あ、ここに居た」カバンを地面に置いて、隣のブランコにミナトが座る。地面を蹴らず、ただブランコに座るだけのミナト。僕のブランコも少しずつ大人しくなり、宙吊りになった椅子と変わらなくなる。
お互い無言のまま少しだけ時間が経ち。「……ミナトには関係ないだろ?」ぶっきらぼうに僕は吐き捨て、また地面を蹴る。それに対しミナトは「わかってないな」と言いながら。「解決しないと私と遊んでくれないじゃん」そう言いながら地面を蹴り出す。
ズレたメトロノームのように揺れるタイミングが異なる二つのブランコ。次第にテンポは落ち着いていき、お互い止まる。ミナトは立ち上がり、カバンを置いたままその場を去る。
……自分でもどうすればいいかわかってるつもりだけど。そのまま俯いて、数分が経過した。首筋に水滴が落ちる。
雨が降ってきたのかと急いで顔をあげると。「ほれ、飲め」その水滴はミナトが買ってきたジュースの缶から滴ってきた物だった。「ありがと」と言いながら缶を受け取る。カシュっとプルタブを開け炭酸が弾ける音が重なる。乾いた喉にジュースを流し込む。どんどんと冷えたジュースが身体に染み渡っていくのがわかる。
「で、結局どうすればいいかわかってるんでしょ?」「そりゃ、わかってるけどさ……」首筋に缶を押し付けられる、冷たい。「それでもダメだったら相談に乗ってあげるから、まずは動け」そう言って、僕の手を取る。「ほら、帰るぞ。本当に夕立が降ってくる前に」「うん」
もうすぐ降るぞと言わんばかりに近づいてくる分厚い雲から逃れるように、僕達は家に帰るのであった。
その数日後「解決したよ、ミナト」とミナトに報告すると「うん、やれば出来るじゃん」と言いながらえらいえらい、と僕の頭を撫でるミナト。「撫でる必要は」「褒める時はちゃんと褒めるのが私」悩んでたことはすんなりと、思ったことをするだけで解決してくれて。でも、それはミナトの後押しがあってからこその出来事だった。
昔から、ずっとずっと。出会った時から、ずっとミナトはそう言う存在だった。こうやって彼女は、僕の情緒を崩しすだけ崩して。
『私ね――』僕の心をくすぐるだけくすぐって。『――恋愛とかはわかんないから。しないんだ』
そうやって、また。僕の情緒を乱していく存在だった。