気が付けばミナトと一緒に昼寝をしていた。相変わらずミナトは僕の事を抱き枕代わりにしている。心地よい温もりの中で徐々に意識が覚醒する。クーラーの効いた部屋の中で薄手の布団を被り、その中には男女二人。そして一方的にとは言え抱きしめられてる。文字だけ見たら完全に同棲かカップルのお泊りかのどっちかになるんだろうけど。一切合切何も起きていない事実がある。
「本当に危機感どうなってんだこいつは」強引に寝返りを打ってミナトの顔を見ると、とても満足そうな表情で寝ている。
……。「いひゃい」とミナトが寝ぼけながらもぞもぞと動く。「あ、起きた」と僕が笑うとぺちん、と僕の手を払いのけるミナト。「なんでほっぺつねるの?」「いや、かわいかったからつい――」――あ。
思わず半覚醒状態の脳から本音が漏れ出す。「ふふん、そりゃミナト様がかわいいのはしょうがないな」あー、こいつがバカで良かったぜ。「でもつねるのは良くないと思います、罰を受けるべき」「ごめんって」ミナトは同じように僕の頬をつねる。「……いひゃ、くない」とボケーっとしていると「はぁー?」と更に力を込めるミナト。うん、あんまり痛くない。
「こうか?こうすればええんか?」あまりにも力が弱すぎて痛さの前に笑いの方が勝ってしまう。「笑顔になった、良し」とミナトは満足したのか頬が解放される。「でも寝ている女の子を襲うのはどうかと」とミナトが笑うので「言い方に語弊がある」と返すも、つねるのは立派な襲撃だと抗議するミナト。「無防備に寝てる方も悪いと思うけど」「無防備を晒せるからこそ無防備で寝てるんだよ?」
こいつって奴は。ムカついたのでもう一度優しくつねる。「……いひゃいのでふが」痛くないようにしているのですが。
「暴力反対」とミナトが抗議する「ミナトだからやってるんだよ、他の人になんて出来ない」そう、と一言呟くとミナトはそっぽを向く。流石にからかいすぎたか。
「ごめんって、ミナト」「怒ってない、怒ってないけどアイスを所望する」そのまま布団に包まるミナト。「……何が良い?」と尋ねるも「美味しければなんでもいい」とだけしか帰ってこないので「わかった」とだけ返し財布を持って家を出る。
別に機嫌を損ねた訳ではないのはミナトの声色からも容易に判断できる。まぁアイスが食べたいって言っているからアイスを買ってきてあげようと。
とりあえずコンビニで適当に何個かアイスを買って、急いで帰る。早くしないとたかだか数分でもアイスが溶けてしまうくらいに暑い。急いで家に帰って冷凍庫にアイスを入れミナトの横に座る。
「買ってきたよ」「……うむ」布団からミナトが出てくる。見た感じはもういつもと変わらないミナトだ。「あいすいずどこ」と首を傾げるので「冷凍庫に入ってるから好きなのどうぞ」と返すと「うい」と返事をしアイスを取りに行くミナト。僕も一緒にアイスを取りに行く。「はい」と、ミナトがアイスを僕に渡す。「選択権が無い」と僕が苦笑いをすると「いじめた罰だ」とミナトが笑う。なんともまぁ軽い罰だこと。
アイスを二人で食べながら、のんびりとする。外からはセミの鳴き声がこれでもかと言うくらいに聞こえてくる。ミナトが「おっ」と声を出す。「どうしたの?」「当たりました」ミナトが笑顔で当たりと書かれたアイスの棒を見せびらかす。「今度交換しにいこうか」
「外出るのめんどくさいからあげる」当たり棒を押し付けられるのでとりあえずアイスの袋の上に乗せておく。ミナトはそのままのそのそと二個目のアイスを取りに行く。「まだ食べるんだ」と声をかけると「もちろん」と笑顔で返すミナト。今度ファミリーサイズのアイスでも買っておいてやるか、と思いながら当たり棒を眺めながら少し考え事をしていた。