その日の夜。「そろそろ寝る……か」と僕はベッドを見る。「さぁさぁおいでませ」そこ僕のベッドなんだけどなぁ。と思いながら窮屈なシングルベッドに、枕二つ。ミナトが落ちたら困るのでミナトを壁側に寝かせる。「……本当にこれでいいのか?」とミナトに聞いてみるも「意気地なしかー?」と帰ってくる。……はぁ、考える方がバカなのかも知れない。横になっているミナトの隣にとりあえず座る。するとミナトは「寝ろ」と言い「うわっ!?」ミナトに強引に横にされる、ベッドの中でミナトと顔を合わせる。……捨てきれない物は捨てきれない、意識してしまう、好きな女性として。顔を見られないように背を向ける。
「なんで背中向けるの?」とミナトはクスクス笑う「恥ずかしいからです」人の心も知らないでこいつは。「ははーん、恋をしてるな?」とミナトがまた笑うので「やっぱりぶん殴ってやる」と振り返ってミナトの顔を見る。暗くてあまり良くわからないが、少しだけ赤い顔をしていた。気がする。まぁ良いか、また向きを変えよう。
訪れる静寂。また十分くらいでミナトは寝るんだろうな。
「ねぇ」と甘い声が聞こえる。「起きてたのか」と聞くと「まだ起きてます」と背中を叩かれる。「寂しくない?」と呟かれるので「ミナトが居るから寂しくはないよ」と答える。「そっか」とだけ聞こえる。
寂しくないのは事実だ。だけど、今まで好きだった人が隣にいて。でも彼女自身は恋愛をする気がなくて。その空回りが、寂しいと思うことはある。「なんか寂しそうな顔してた気がしたから。お節介だったね」とミナトが呟くので「ミナトが世話焼きなのは昔からだろ」と返す。「そうだね」と一言だけ呟くミナト。「ミナトは、寂しくない?」と僕から聞くと「……寂しい、かな」とか細い声が帰ってくる。
何が寂しいのか僕にはわからない。でも。その寂しさを少しでも僕が埋めることが出来るのであれば。自己満足でいい、少しでも役に立ちたいと。そう思っている自分に対して自己嫌悪しながら。
「……すぅ」ミナトの寝息が聞こえてきた。やっぱり入眠は本当に早いな。「……寂しくはないけどさ」そう、寂しくはないんだけど。「切なさは感じる、かな」と、聞き手の居ない、独り言を零す。手が届くのに、手が届かない距離に居る想い人を背に。あぁ、今日寝付けるかなぁ。と誰にも見えない苦笑いをする。
意識が覚醒していくのがわかる。朝か、起きなきゃな。だが、身体が動かない。いや、動かない、ではなく。――動けないのだ。
「ミナト?」まだミナトは寝ている。「どうしたもんか」ミナトに抱き枕にされているこの現状。起きたくても起きられない。だけど水も飲みたいしトイレにも行きたいので、なんとか振り解いてベッドから出る。それでもミナトはまだ寝ているようだ。
「人の気も知らずに……よく寝る子だ」トイレに行って、冷蔵庫から水を取り出して飲んで。部屋に戻るとミナトは起きていた。
「なぜ逃げたのですか」とふてくされるミナトに「いや、何からも逃げてないけど」と返す。「先程まで包み込んであげていたというのに」とミナトが零すので「いや、純粋に寝ぼけて人を抱き枕にしてただけでしょ」と指摘すると「そうとも言う」といつもの表情で笑うのであった。はぁ、自由気ままだ。
その日から、ある程度ミナトとの生活は規則正しいものになっていった。朝に起きて僕が朝食を作り、その後のんびりゲームをしたりテレビやアニメを見たり。お昼はミナトが作ってくれる。その日の気まぐれメニューだ。お昼を食べたら少し横になりながら話をしながらまたゲームだとか。夕飯は僕が作るかたまに外食。そして深夜までずっとゲームしたり話をしたり。規則正しくないものと言えば、この間に何回かミナトが寝落ちするタイミングくらい。そんな環境が一週間くらい続いた。