とりあえずミナト用の脱衣カゴに、寝袋だと床が痛かったのでなんかマットレスでも買おう。ミナトに「シャンプーとか自分で使ってたやつ取ってきなよ」と言うと「いや、あれでいい。ボトル増えても困るでしょ?」確かにボトル増えても困るのはそうなんだけど。まぁ合理的と言えば合理的か。ミナトは時折こう言った面も見せるときがある。
ミナトが「それで、そのおっきくて白い奴は何?」と聞くので「マットレスだけど」と返すとミナトは少し考えながら言葉をひねる。
「そんなモノ必要?」と聞くので「寝袋じゃ床が痛いから必要」と返す。「ふーん」とミナトはマットレスを手に取る。「これどこにあったの?」と聞くので、マットレスがあった場所までカートを押しながら二人で歩く。
「ここらへんの……あ、これだよ」と僕が言うと、ふぅん。と鼻をならしながらミナトは手に持ったマットレスを棚に戻す。そして「必要ないでしょ」と言うので「いや、だから床で寝ると硬いんだって」と返すと「そうじゃなくて」とミナトは詰め寄る。「一緒にベッドで寝れば痛くないじゃん」
ぶん殴ってやろうか、それとも返品不可とデカデカと書いたダンボールでミナトの家にクール便で送ってやろうか。
「大丈夫だよ。襲わないし、襲えないでしょ」いや、やはりぶん殴りたい。ただ、言われたことは確かでもあった。「だからって」と言葉を詰まらせると「私のこと気にしてるの?」と聞かれる。そりゃ、色んな意味でしてるよ。
「そもそもそんな恐怖があるなら独り身の所に転がり込まないと思うんだけどなー」とミナトが笑うので「わかった、わかったよ」と渋々マットレスを戻す。
やはりいつになってもミナトには勝てないんだな。小さい時からそうだった。いつもミナトは良いように言いくるめてくる。だけど、それが嫌だった訳じゃない。今となってわかるのはミナトが僕の為にこうやってしてくれたことは、僕のためになっていることが多い。引きこもりがちだった僕の手を引いて外に連れ出してくれたのもミナトだった。
『私が寂しいんだ、来い』その不器用な言葉、今となってはちゃんと解釈することが出来る。お前が寂しそうにしているんだ、と。
「その他に買っとく物もある?」「んー、今カートに入ってる物で大体大丈夫じゃないかな」とやりとりをすると「おっけ」と頷きレジに向かう。
予想以上に買いすぎてしまって二人で持つには大変と言う事に気が付いて立ち往生。「どうする?」とミナトに聞くと「歩きたくない」と当然の答えが帰ってくる。外は炎天下。こんな状態でこの量の荷物を持って帰るのは大変だ。どうしたものかと立ち往生すると、「なので軽トラを借ります」とミナトが満面の笑みで言う。「借りれるの?」と聞くと「あそこ」とミナトが指さした先には軽トラ無料貸出の文字。
「……運転できるの?」「出来ないことも無いと思う」まぁそれしか方法はないか、と店員さんに軽トラを借りに行く。「借りれるって。運転者のサインが必要だからお願い」「ほいほい」ミナトが書類に記入している間に借りる軽トラに荷物を乗せる。積み込みが終わった頃、ちょうどミナトが軽トラの鍵を持ちながらこっちにやってきた。
「それじゃ運転しちゃいます」「よろしくおねがいします」家まで軽トラで向かい、荷物をとりあえず下ろす。そしてすぐさま時間内に間に合うようにホームセンターまで軽トラを走らせる。
「ありがとうございました」店員さんに鍵を返すと、ちょうどお昼の時間あたり。「近くで食べていこうか、ファミレスあたり」とミナトに言うと「うん、食べよ」と帰ってくる。
ミナトとこうして外食をするなんて、高校生の時以来だろうか。あの頃になるとミナトの方が外に出たがらなくなり、家でごろごろとしている時間が増えていた。それでも、僕と遊ぶ時はちゃんと外に出ていたし、それで僕は安心していた。そして、その外食をしていた時。間接的にミナトにフラれたのだけども。……なんて事は今はどうでもいい。
ご飯を食べた後にドリンクバーの飲み物を飲みながら「ミナトって、本当に自由だよな」と呟くと「ん?何が?」大盛りパフェを食べながら聞いてくるミナト。「いや、そうやって大盛りパフェを我が物顔で食ってる所とか」と笑うと「おごりでしょ?」とミナトが笑う。そうだけど。いや、そうなんだけど。
図々しさとはまた違うなんと言うか。「こう言う所もなんだろうな……」僕がミナトに惚れてしまった理由の一つ。言葉だけ聞いてあたまにハテナを浮かべるミナト。「私のどう言う所がご不満で?」「そうやって追加でオーダーをしようとしてる所」