1.
――悲惨な失恋をしました。
人の情緒を狂わせるだけ狂わせておいて、そいつは他の女と軽々しく付き合い出したのです。
私はやけになり、昼間からコンビニでロング缶のビールを数本購入して店を出ます。
そして近くの公園の喫煙所でいつもより数ミリ重たいタバコを吸いながら、ずっと空を見つめていました。
「お姉さん、どうしたんですか?」
2.
その声は私の視線よりも下から聞こえました。
中学生くらいの女の子でしょうか?その声の持ち主は私の横に立っていました。
「嫌なことがあったらお酒を飲む、それがダメな大人の気晴らしなんだよ」
少女は「なるほど」と頷き、私の隣りに座りました。
「私も飲めるようになりたいですね、嫌なことがあったので」
3.
「嫌なこと?」と私は素で聞いてしまいました。
酔いで聞いていいことと悪い事の境目が曖昧になっているのです。
「そうです、失恋したんです。三年くらい好きだった男の子でした」
その言葉にはうっすらと自分と重なるものがありました。
三年、そう。私も三年間も実ることのない徒花を咲かせ続けたのです。
4.
「奇遇だね、私もちょうど失恋した所」
そう言うと女の子は立ち上がります。
そして、「よしよし」と言って私の頭を撫でてきます。
「……ありがとう」
「お互い様です、私にはこれくらいしか出来ないので」
そう言う少女の頭を私は優しく撫でました。
5.
「心地いいですね、春の暖かい陽だまりみたいです」
そう言うと少女は空を見上げます。
まだ、春には遠く。それでいて私達の春はもっと遠くにあるのです。
空を見上げたまま少女は「お酒が飲めたらなぁ」と呟きます。
「それにはもう何年か待たないとね」
少女は「そう言う時は飲ませてくれるのが一番なんですよ」と笑います。
6.
「流石に」と私はためらいますが、その油断の好きに少女は缶を奪い飲み干します。
そして「うー、毒みたいな味」と呟き涙目でこちらを見ます。
「私もそう思うよ」と返すと「じゃあなんで飲んでるんですか?」と帰ってきます。
「……毒が飲みたい気分だから?」
「じゃあそのタバコも毒を吸うために吸ってるんですね」
確かにそうかも知れないな、と少し笑うと少女は「お姉さんの笑顔、素敵です」と笑顔で返します。
「私もあなたの笑顔、キレイで好きだよ」
7.
そう言いながら私達は冬の空の下、いつか来るかも知れない遠い遠い春を待っていました。